裁判所の論文模範解答例を公開しています。
現在公開しているテーマは下記の通りとなっています。
・携帯電話の普及
・食品の安全確保について
・自然災害対策
・子どもの安全
・環境問題(地球温暖化)
・組織内コミュニケーション
・興味や理解への工夫
・偽装問題への対応
・企業と学生の認識の差異
・仕事ができることと勉強ができることの違い
論文試験を効率よく対策するためには、論文試験を「暗記科目」と捉えて「予想されるテーマの模範解答を可能な限り沢山記憶すること」が求められます。
裁判所一般職の受験生はこの記事をぜひ参考にしてください。
ちなみに、下記の記事では「公務員試験の論文頻出テーマ」をまとめています。
全国の市役所・県庁の出題傾向を徹底的に分析しているので、ぜひ読んでみましょう。
携帯電話の普及
現代社会において、携帯電話は単なるコミュニケーションツールではなく、防犯機能や電子マネー機能、ゲーム機能などが備わった、生活に欠かせない幅広いツールとなっている。携帯電話の普及率は既に100%を超えており、単純計算で日本人が最低でも一人一台持っているという状況となった。街を歩けば時間、場所、場面、老若男女を問わず携帯電話が利用されており、そのことからも、いかに携帯電話が人々の日常生活に密着しているかが分かる。
携帯電話の普及が社会に与える影響について、大きく2つの変化に注目して功罪を考える。
第1の大きな変化は、いつでもどこでも誰とでも連絡が取れるようになったことである。携帯電話が無かった時代は、待ち合わせの際になかなか予定変更を伝えることができず困ったり、相手が自宅にいて都合が良いタイミングを考えて連絡をとったりする必要があった。しかし携帯電話の登場により、電話はもちろん、メールなどでいつでも気軽にコミュニケーションを取ることが出来るようになり、病気や事故などの非常事態のときでも、即座に連絡を取り合うことができるようになった。
一方で、いつでもどこでも誰とでも連絡が取れるということには、様々なデメリットも存在している。連絡を取りたくない相手や取りたくない時にも、携帯電話があれば対応しなければならないし、電車や航空機、病院のような携帯電話の使用が制限されている場所におけるマナーも問題となっている。SNSやメッセージ機能などで誰とでもつながれるということは、若年層にとって安心感とともに生きづらさも感じさせ、必要以上に人間関係を気にしてしまう要因にもなる。携帯電話は使いやすいからこそ、使う側にモラルとマナー、自律心が要求される。
第2の変化として、携帯電話を利用した犯罪が生まれたことである。携帯電話の普及とともに、インターネットとの距離が近くなり、一部のインターネットサイトが犯罪の温床となっていたり、未成年者との出会いの場となったりしている現状がある。これまでは自宅のパソコンからしか接続できなかったインターネットが、どこでも利用できるようになったことで、ブラックバイトや売春、他人への誹謗中傷の口コミなど、様々な犯罪に関わりやすくなる。
インターネットが犯罪の温床になっている現状を打破するために、フィルタリング機能や監視体制の強化をしていく必要があるだろう。特に未成年者に対しては、気軽なSNSの利用によって一生残る傷を負う場合もあることを、学校現場やメディアを通して伝えていくべきである。
今後、携帯電話はますます普及し、社会もそれに伴って変化していくだろう。生活を営む上での利便性がますます向上してゆく一方で、これまでは存在しなかった新たな犯罪やマナーの問題などもさらに顕在化してくる。社会の変化に伴って、迅速に法規のあり方を見直し、使う側のマナーとモラルの向上を図っていく必要がある。
食品の安全確保について
我が国においては、遺伝子組み換え作物や放射性物質、古くはアメリカ産牛肉による狂牛病、中国産の毒入り餃子の問題などから、「食の安全」が問題となっている。食の安全が脅かされると、国民の誰もが被害者になり得ることに加え、万が一有害物質を摂取した場合に人体に及ぼす影響も大きい。消費者は一般に販売されている食べ物が安全であると信頼しており、まさか有害物質が混入しているとは考えない。そして、万が一有害物質が混入している場合でも、消費者がそれを判断することは極めて難しい。だからこそ、行政が率先して「食の安全」を確保していく必要がある。行政が「食の安全」を確保することは、国民の生命を守り、安心と信頼を基盤にした自由な経済活動を促進することにつながる。
「食の安全」が脅かされる主たる原因としては、食品を提供する業者が自身の利益を追求した結果、安全性を軽視し、コンプライアンスの低下がもたらされていることが挙げられる。とりわけ中国における「段ボール肉マン」や賞味期限改ざん問題などは記憶に新しい。現在、国は農林水産省や内閣府を中心に規制や監視を行なっているが、実際には様々な場面で有害物質の混入が見受けられ、過去のユッケ事件のように死に至る重篤なケースもあった。食に関する流通経路が複雑化し、様々な利害関係が存在する中、「食の安全」をどう確保していくかが課題となる。
私は、「食の安全」を確保する方策として、第1に行政による監視体制の強化、第2に消費者による監視体制の強化、の二点が重要であると考える。
第1の行政による監視体制の強化とは、有害な物質が混入した食品を流通させないような厳しい監視体制を構築していくことである。企業に対する抜き打ちでの衛生検査はもちろんのこと、農作物についてはDNA検査なども行なっていくべきであろう。また、故意、過失を問わず、安全基準に従わない企業に対しては、営業停止や罰金、消費者への企業名の公開なども含めた厳しい措置を講じる必要がある。罰則がより厳しいものになれば、極端な利益偏重に陥っている安全面への配慮に欠けた企業に対しての警鐘となるだろう。
第2の消費者による監視体制の強化とは、消費者自らが食の安全をチェックできるスキルを身に付けることを意味する。具体的には、食品製造過程などをHPを通じて適宜確認することや、消費者団体による定期的な製造工場のチェックなどが考えられる。また、賞味期限の記載を大きく見えやすい位置にしたり、パッケージに示したQRコードを読み取れば詳細な成分表記を確認できるようにしたりという方法もある。消費者は「食の安全」を軽視している企業については、厳しい目で監視し行政への報告や是正要求を行なうべきであろう。
食料自給率の低い日本では、今後も海外から輸入された食品を手にすることが多い。その際、コストだけで食品を選ばず、安全性という指標によって消費者が食品を選べるようなパッケージのあり方や基準の明確化を検討していくべきである。
自然災害対策
日本はプレートの上にあるという地形上、多くの地震が発生し、地震大国と呼ばれている。特に阪神・淡路大震災や東日本大震災などの大地震発生時には、多くの犠牲者が出ただけでなく、住居やインフラなどが破壊されたことで都市機能がマヒするなど、長期的にも国民生活に甚大な被害を及ぼした。また、歴史的に台風や火山の噴火なども多く発生し、そのたびに国民は大きな被害を受けている。自然災害に対して国民一人一人が日頃から備えておくことが不可欠としても、その規模や重大性などに鑑みて、国家レベルで対策していくことが必要であると考える。
国民の生命と財産を脅かす自然災害対策について、国家機関が担うべき役割及び果たすべき機能について以下の二点から考えられる。
第1に、防災関連技術の振興国家である日本が行うべき災害対策として、防災に関連する科学技術の発展と普及を支援することが考えられる。震災について言えば、次々と最先端の耐震・免震技術が誕生しているにも関わらず、国民がそれらを利用しづらいという現実がある。国家としては、そういった技術の発展に対して財政的支援を行うと同時に、国民に対しても財政的扶助を行うべきであろう。
また、科学技術の発展に伴って高度情報化社会を達成した現代だからこそ、逆に情報メディアの脆弱性が大きな問題となり得る。例えば、災害時において断線や回線の混乱によって親族と連絡がつかなかったり、政府からの情報が被災者のもとに届かなったりする状況がしばしば発生している。twitterやFacebook等のSNSを活用した情報発信を強化したり、コンビニなどに固定電話を設置して通信方法の多様化を図ったりすることも重要である。また、災害時にフェイクニュースや噂などによって人々が混乱する場合もある。国民が一つのメディア情報だけに依存せずに、様々な情報を取捨選択して正しい行動がとれるように、日頃からネットリテラシーに関する情報を発信していくべきである。
第2に、自然災害時には国家機関だけでなく、地方公共団体やボランティアの活躍が必要不可欠であるため、それらとの連携がスムーズにいくように呼びかけと調整の体制を整える必要がある。地域の事情や地理を熟知している地方公共団体は物資や人員を迅速に届けることができる一方で、国家には地方公共団体の情報を収集、集約した上で金銭的、物質的な支援を講じることが期待される。復興に際してボランティアが果たす役割も大きく、災害時に瞬時に適切な場所に派遣できるよう、日頃から募集と訓練を繰り返す必要がある。
民間のボランティアや災害ボランティア、自衛隊などの個々の働きを最大限有効利用するためには、行政が瞬時に情報を集約・分析し、指示をおろす必要がある。実際にはそれらの情報収集が遅れて、動ける人員がいるにも関わらず、すぐに配置できなかった事例もある。色々な災害状況を想定して訓練することはもちろん、逼迫した状態においてはある程度の自由な活動権利を与えることも検討していくべきである。
東日本大震災において、「津波てんでんこ」という合言葉によって小さな子供でも自らの判断で逃げることができたように、災害直後に大切なのは一人ひとりの判断である。行政として、未曽有の災害が起きた場面でも落ち着いて行動できる国民を育てるために、あらゆる災害パターンを伝えていくべきであると考える。
子どもの安全
近年、子供を犯罪や事故から守るための取組についての議論が活発化している。誘拐や暴行、性犯罪など、子どもに対する犯罪の件数自体は減少傾向にあるにも関わらず、このような議論が近年になって活発化しているのはなぜだろうか。
その背景には、共働きの一般化や核家族化によって子どもに目が届きづらくなったこと、地域コミュニティの衰退によって近隣の住人との交流がほとんどなくなり、従来子どもを見守ってくれていた近隣の助けを得ることが難しくなっていることがある。また、子育て支援の不足や貧困などによって子育て世帯の抱えるストレスが増え、外部からは発覚しにくい家庭内での虐待も子どもの命を脅かしている。さらにはスマートフォンや携帯の普及で、親自身も子どもから注意がそれやすく、また子ども自身もインターネットを介した犯罪に巻き込まれやすくなっている。今後、子どもの安全を守るための取組をより一層強化していく必要がある。
以上のような背景を踏まえて、子どもの安全を確保するために大切な視点として、一つ目が子どもにとって安全な環境づくり、二つ目が子どもの防犯意識の向上だと考える。
子どもにとって安全な環境づくりのために、子どもを犯罪から守るという視点にたち、通学路での警察による取り締まり強化や防犯カメラの設置、また地域ぐるみで子どもを見守る仕組みづくりとして、ボランティアが通学路をパトロールして挨拶をすることや、不審者に関する情報を共有できる体制を構築していくべきである。また、水辺に近い公共施設ではフェンスや柵の設置や、目立つ注意看板を置くこともできる。さらに、片親世帯や貧困世帯の子育てストレスを緩和できるよう、一時預かり無料保育所や、子育て相談カフェなどの開催にも行政が力を入れていくべきである。小さな子どもでも携帯を持つことが増えており、SNSやインターネットの利用によって犯罪に関わる危険性も増えている。それらを介した犯罪に対する注意喚起を広告として表示するシステムを整えることも必要だと考える。
二つ目の、子どもの防犯意識の向上とは、安全な環境を作ることができても犯罪や事故をゼロにすることはできないので、子ども自身が自分で身を守る意識を持つことが必要であるということである。そのために、家庭や学校で子どもに対して防犯教育を行なっていくべきである。例えば、不審者に遭遇した際の対策を事例を交えながら具体的に指導したり、子ども110番の家の場所を登下校の時間を利用して周知することで、判断能力の未熟な子どもであっても緊急時に適切な対応ができるのではないだろうか。また、子どもにGPS付きの携帯電話や防犯ブザーを持たせることも大いに有効であると考える。さらに、水辺や山に潜む危険性を幼児期や小学校低学年で伝える教室を行政が開くこともできる。
自分で身を守れない子どもたちの安全を守るのは、保護者の義務であることはもちろん、国や地域全体の責務でもある。地域全体で子どもを守る取組を積極的に推進していくべきであろう。
環境問題(地球温暖化)
環境問題にはごみ問題や水質汚濁、自然破壊など様々な種類があるが、特に関心を持っているテーマとして、環境問題の中でも最も深刻であると言われる地球温暖化について取り上げる。地球温暖化は、海面上昇や異常気象、それに伴う食料不足など、人類の存亡そのものに関わる重大な問題であることから、日本のみならず世界中の国々にとって最重要課題となっている。国際社会では、2011年に開催されたCOP17において京都議定書の五年延長が決定し、新たな枠組みの2015年の採択と2020年以降の発効を目指すことが合意された。
一方で日本においては、温室効果ガスの削減目標の設定や、事業者に対する温室効果ガス削減の指導が行われている。そのような取組がなされているものの、近年世界中で地球温暖化の影響が顕著に表れている。人類の持続的な発展のために、世界規模でさらなる対策を講じていくべきであろう。
地球温暖化を抑止するために取り組むべき課題として、一つ目に「環境技術の開発・普及」、二つ目として「様々な主体に対する環境ムーブメントの喚起」の二点が重要であると考える。
まず、環境技術の開発・普及のために、温室効果ガスの排出量が少ない家電やエコカーなどの開発費用に助成金を出し、メディア広告を通して積極的に周知し、それらの利用ハードルを下げることが必要である。電気自動車は近年特に注目されており、充電スタンドが増えるにつれて、普及率もさらに高まっていくだろう。
また、2011年の原子力発電所の事故を経験し、今後原子力依存からの脱却が急務である日本にとって、火力発電は最も重要な発電手段である。
しかし一方で、火力発電は温室効果ガスの排出量が多いという問題を抱えている。このような中で、太陽光発電や風力発電、地熱発電などのクリーンエネルギーの技術革新がとりわけ重要である。クリーンエネルギー消費者に補助金を給付することで普及を促進するとともに、事業者に対しても必要に応じて研究・開発費の扶助を行うべきである。
次に、様々な主体に対する環境ムーブメントの喚起のため、事業者に対して政府が消費エネルギー削減目標を定めたり、クリーンエネルギー採用計画書の提出を求めたりして、一定の強制力をもった取組を行うべきである。
同時に、エコポイント制度のように企業に対する支援も行なっていくべきである。国民に対しては、一人ひとりが当事者であることを意識してもらうために家庭でのエネルギー消費量をグラフ化できるアプリの提供や、エコドライブの継続距離に応じたポイント給付などの取組を行なっていきたい。
地球温暖化対策は経済性や効率性とは相反する側面がある。しかし、日本は国際社会における責任ある立場として、最先端の環境技術によって率先して地球温暖化に取り組むとともに、これから多大なエネルギーを必要とする発展途上国に対して惜しみない技術供与を行なっていく必要がある。
組織内コミュニケーション
現代社会においては、携帯電話やインターネットの発達につれて、人と人とのコミュニケーションの態様が、対面のコミュニケーションから画面越しのコミュニケーションへと徐々に変化している。それにより関係が希薄化し、人々は孤独感や疎外感を感じるようになったといわれることもある。一方で、メールやテレビ電話によるスピーディーな情報伝達によって現代社会における生活の利便性は大きく向上しているともいえる。実際に組織においても、合理性や利便性の観点からメールやテレビ電話による情報伝達やコミュニケーションが広く利用されている。
しかし、それでもなお、個々人が信頼関係を構築するためにはFACE TO FACEでのコミュニケーションが重要である。組織の目的は様々であり、例えば、ボランティア団体は広く社会に貢献することが目的であるし、民間企業では利益の追求が目的である。どの組織にも共通していることは、人と人との関わり合いの中で維持されている組織にとって、一番の資源は人であるということである。組織が目的を達成するためには、その組織内の人間同士の協力が必要であり、協力するためにはコミュニケーションが必要不可欠となる。
例えば、全員がその組織内の全ての業務を完璧に理解して実行するよりも、お互いの特徴を知り、得意な分野については指揮を執り、苦手な分野についてはフォローし合うという体制が合理的である。
また、上司や先輩などが、新人に対して仕事を教える際にもコミュニケーションは重要といえる。その際、感情の機微や表情の変化を伝えることができるのは対面でのコミュニケーションであり、画面越しのコミュニケーションでは難しい「空間の共有」が可能になると考える。
このようなコミュニケーションは、情報伝達や仕事を教える際に重要であるのはもちろんのこと、組織内の人間のモチベーションを上げることにも大いに役立つ。いわゆる飲み会や社員旅行など、組織の目的に直接係わらない場で親睦が深まると、組織内の人間のモチベーションが高まると同時に、お互いの信頼関係も深まり、快適な仕事環境の構築にもつながる。現代では業務時間外の飲み会に全く参加しようとしない若者もいるが、ある程度の親睦を深めるためのコミュニケーションは、積極的にとっていくべきであると考える。
また、画面越しのコミュニケーションが増えたことで、業務で関わりがない人と接する機会が減っている。これまでは、給湯室やコピー機の前などで自然と発生していた雑談がなくなり、必要最低限の相手としか話をしないことで、偶発的な楽しみや学びを得ることがなくなっているのである。組織内外を問わず、自由に人と接することができるランチミーティングや、オンライン飲み会、スポーツクラブなどを設定することも必要だと考える。
今後、コミュニケーションのあり方が変わっていく中で、人とのつながりをつくる工夫が必要であると考える。
興味や理解への工夫
何にどれくらいの興味・関心を持っているかは人によって違い、同様に、どのような分野にどの程度の専門知識を有しているかも様々である。税金や選挙などの国民の生活に大きく関わることについては、多くの人の興味・関心を積極的に喚起し、理解を促す必要があると考える。しかし、情報メディアが新聞やテレビしかなかった昔に比べて、今は様々な媒体から情報を得ることができるため、自分が興味を持っていないことに対して関心を持つことは難しく、情報を発信する側の工夫が必要である。
まず、高齢者世代は新聞・テレビから情報を得ることが多い一方で、若年者層はインターネットから情報を入手することが多い。当然、情報を伝える媒体が偏ると幅広い世代への情報の周知徹底を図ることが出来ない。そのため、新聞・テレビによる情報発信以外にも、SNSの活用やラジオなど、出来るだけ多様な媒体を使って広範囲に情報を発信すべきである。
情報を知った上で次にそれに興味を持ってもらうためには、視覚的にわかりやすい資料の作成やイメージキャラクターの公募、芸能人の起用などが有効であると考える。最近では温泉地のイメージキャラクターを2次元キャラにして若者の関心を引こうと取り組む自治体もあり、関心を呼びたい世代の特徴をつかんだ良い例だと考える。さらに興味・関心を持続してもらうために、情報発信と同時に、相談窓口の設置やHPのリニューアルなども行い、情報の受け手の側の疑問や意見などに即座に対応・フィードバックすることが出来る体制の構築をするべきであろう。
また、情報を積極的に発信し興味を持ってもらうことができても、難解な専門用語や理論がならんでいては、専門知識を持たない人には理解することが出来ない。専門用語をできるだけ平易な言葉に置き換え、身近な具体例で説明するなどの工夫が必要となるだろう。
裁判員制度は一般の国民にとってあまり馴染みの無い司法制度であるが、様々な工夫によって興味と理解を促している。例えば、漫画を利用した説明や再現DVDの配布、ホームページ上でアニメーションを公開するなどして周知徹底を図った。このような取り組みの結果、裁判員制度導入時の認知度はほぼ100%、候補者の参加率も80%を超える高水準となったことを考えれば、裁判所による取組みは成功したと言うことが出来るだろう。
SNSの発展で飛躍的に情報が拡散する世の中で、情報発信者は伝えたいターゲットに対してどうすれば情報を理解し興味を持ってもらうかを考え、工夫することが大変重要である。今後、少子高齢化が加速していくと、ますますジェネレーションギャップは深まり、情報認知の世代間の偏りが生まれる。すると、子育て支援に対する高齢者の無関心や、選挙や政治からの若年層の遠ざかりが深刻化するかもしれない。行政は日常生活にあふれている様々な広告やCMなどにアンテナを向け、広告戦略を考えていくことが必要である。
偽装問題への対応
近年、さまざまな業界において偽装問題が表面化しており、国民は企業が持つコンプライアンスに対して大きな不信感を抱いている。とりわけ世間を賑わせた悪質なものとしては、姉歯建築による耐震偽装問題や三笠フーズによる事故米を食用と偽装して販売した事件、白い恋人の賞味期限改ざん、雪印食品の産地偽装問題などが挙げられる。このような偽装が起きる背景として、企業の度を越えた利益追求姿勢、モラルやコンプライアンスの低下がある。企業にとって、表示やデータを少し改ざんするだけで経費を削減できたり、ブランドイメージが保たれたりするのは魅力的かもしれない。例えば姉歯建築による耐震偽装は、必要な工程や資材を削減しつつ耐震水準を改ざんすることで経費の削減を行うものであった。また、産地偽装は、古米を魚沼産コシヒカリと偽ったり、外国産の物を国産と偽ったりすることで消費者にブランド力や安心感を与えていたと言える。
企業にとって利益を上げることは至上命題であることから、企業のモラルやコンプライアンスにのみ偽装の抑止を委ねるような体制は十分でない。
そのため偽装問題の対応策としては、行政を中心として偽装を抑止する体制づくりを強力に進めていく必要がある。
まず、法規の整備と行政の適切な指導をすることが必要である。管理職だけでなく一般の社員までがルールや関連法規を理解できるように、社内コンプライアンス研修の実施を促したり、不適切な表示に是正勧告を出し、悪質な業者には営業停止処分や企業名の公開などの罰則を科したりするべきである。同時に、消費者の誤解や錯覚を助長するような悪質な表示、内部告発者の不利益取り扱い禁止については、法令の整備を行うことで対処していくべきであると考える。
次に、チェック体制の強化が必要である。対象企業が定められたルールをしっかりと守っているかどうか、消費者保護のみならず、企業同士の公平性の観点からも厳しいチェックを行なっていく必要がある。具体的には、食品に関しては国が不定期にDNA検査を行うことで産地偽装を防止したり、チェックしたものについて国が認定マークを発行したりすることができる。
最後に、消費者相談センターや告発相談などの問い合わせ機関の周知が必要である。既に設置はされていてもなかなか一般に周知されているとは言い難く、気軽に相談や質問ができるとは言えない。メディア広告を通してその存在をアピールし、消費者の相談や企業内通者からの告発もしやすくなれば、企業に対する抑止力にもなると考える。
近年発覚した偽装は全体から見れば氷山の一角かもしれない。今後、行政は偽装対策の専門チームの設置や、アメリカのような内部告発者への褒賞金制度を採用することなども含めて、積極的に改革を進めていかなければならない。また、消費者も行政に頼るばかりではなく、行政とともに偽装を許さない体制を作るという気持ちで偽装問題に取り組んでいくべきであろう。
企業と学生の認識の差異
企業と学生がそれぞれ考える「社会人基礎力」に関する認識の違いは、働くための最優先事項としてそれぞれが何に重きを置いているかの違いから生まれるものだと考える。
企業にとって「主体性」、「粘り強さ」、「コミュニケーション能力」などの内面的な能力要素は働く上での最優先事項であり、これが社会人として最初に必要な基礎能力である。逆に、技術・スキル系の能力要素は働く過程で自然と身に着いていくものであり、むしろOJTやOffJTによって企業の側が積極的に習得を支援するものでさえあると考えられているようである。一般に、終身雇用を前提とした日本の企業は、新卒の段階からスキル的な即戦力を求める傾向が強くなく、企業の中で働きながら養われるべきであるとの考え方が根強い。
では、なぜ学生側に企業と同じ認識が生まれないのだろうか。その理由としては、学生が仕事というものの具体的イメージを持たないまま、安易に即戦力が必要とされると考えてしまうということが挙げられる。また、主体性やコミュニケーション能力などのスキルは目に見えず数値化できないため、自分の能力を客観視できない。そのため、それらの自分の能力を過大評価してしまうことも考えられる。
また、学生にとっての人間関係は、互いの年齢や学力がある程度似ており、自分から話しかけたり関係性をつくったりすることが比較的容易である。しかし実際に会社に就職すると、年齢や立場、価値観が全く異なる相手と仕事をともにしなければいけない。その環境で、先輩や上司に質問や相談をしようとしてもなかなかできず、結果としてコミュニケーション能力が高くないと判断されやすいのである。
さらには、学生側の年齢と企業側の年齢のギャップも認識の違いの理由として挙げられよう。例えば、学生にとって「主体性」とは、指示された業務を着実にやり遂げることであり、企業にとっての「主体性」とは、自分からアイデアを上司に提案することかもしれない。時代が変わっていく中、それぞれの常識も変わりつつあることが社会人基礎力への認識に違いを生んでいる。
これらの認識の乖離を是正するため、大学での授業や就活イベントなどにおいて、主体性やコミュニケーションについて細分化したチェックリストをつくり、学生の認識に変化を与えるべきである。例えば、「50代の男性上司に、自分からわからない業務内容を質問できると思うか」、「自分の担当ではない業務でも、困っている同僚がいたら手伝えるか」などの、職場イメージをしやすい項目をつくり学生に提示することで、学生が企業に求められている資質を把握すると同時に、自分の素養を客観的に判断しなおせると考える。
企業側も、インターンシップや説明会などで、抽象的な言葉だけでなく、具体的な場面をイメージできるような言葉で学生側に説明することが求められよう。
若者の転職が増えている今、できるだけ認識の差を少なくし、お互いの条件や希望をマッチングできるような体制をつくっていく必要があると考える。
仕事ができることと勉強ができることの違い
一般的に、「勉強」ができれば「仕事」もできると思われやすい。ただし、実際には勉強ができるからといって必ずしも仕事もできるとは限らない。したがって、仕事ができることと勉強ができることは異なると言える。
勉強ができれば仕事もできると思われやすい理由として、勉強ができると、努力・記憶力・理解力・持続力・真面目さなどの面において優れている可能性が高いために、同じように仕事に対しても努力や持続力を生かして成果を出せると考えるからであろう。
しかし、現実には勉強ができるからといって必ずしも「仕事」もできるとは限らない。その理由として、それぞれに求められる能力が違うことが挙げられる。勉強は、与えられた課題を受動的に解決していけば十分に結果が出せるのに対して、仕事では、自ら能動的に課題自体を発見し解決していかなければならない場合が多い。
また、勉強では一つの客観的正解を求めることができやすいのに対して、仕事にはただ一つの正解がない場合も少なくない。社会情勢の変化が著しい現代社会においては、時に前例を踏襲して同じような方法で取り組むのではなく、チャレンジ精神や臨機応変な対応が求められる場合もある。このような仕事の場面では、周囲の人間と協力して適切と考えられる正解を自ら主体的に探していく必要がある。
さらに、勉強は他者との関わりを必要とせず自分一人の力で解決できることも多いのに対して、仕事は、どんな職種であろうと、上司や同僚、取引先など、他者との係わりを大事にしなければ円滑に進められないということも、勉強と仕事の大きな違いである。
以上のことから、仕事と勉強は、ゴールに向かうための方法がそれぞれ異なるため、継続力や真面目さを同じように持っていても、仕事上では成果を出せないことがある。
しかし、日本の教育現場では、生徒に勉強ができるようになることやそのための能力育成を基本方針とすることが多い。テストの点数や順位によって指導方針が決まり、生徒自身もそれに一喜一憂することが一般的な光景となってしまっている。
にも関わらず、社会に出たとたん仕事ができるようになることを求められるため、そのギャップに苦しんだり、戸惑ったりしてしまうのだ。高学歴にも関わらずニートやひきこもりになってしまうケースは、勉強と仕事の成果の出し方の違いによるものから生まれる日本全体としての問題である。
私は、このような学生時代と社会人とのギャップを埋めるために、教育現場での指導方針を変えていく必要があると考える。指示されたことを淡々とこなす能力や、問題をすばやく解く能力よりも、自ら課題を発見したり、他者と能動的に関わったりする姿勢を指導し、評価できる体制を基本としていくべきである。真に社会で生きる力を育成するために、学校に求めることを社会全体が見直していくべきであると考える。
裁判所一般職の過去問
なお、裁判所一般職の過去問は下記の記事で紹介しています。
確実な合格を勝ち取るためには論文対策が欠かせません。
過去問で出題があったテーマは一通り目を通しておきましょう!
国家一般職の模範解答例を公開中
なお、下記の記事では「国家一般職の論文模範解答例」を公開しています。
この記事を読んでいる裁判所受験生の中には、国家一般職を併願している人もかなり居るでしょう。
国家一般職の論文対策として、是非参考にしてください。